猫ランドの猫の毛おばさん

夜のとばりが降りる頃、そういえば今日が期日だったといそいそと、借りていたコミックを返しに近所のゲオに向かった。たった五分車を走らせただけで、辺りはもうすっかり日暮れている。

2階に続く階段をのぼり始めると、ふと足元にアレンとビビがいるのに気づいた。

ついてきたんだ。かわいいね、よしよし。

と思ったが、無論、違う。

いやむしろ、その方が良かったとも思う。いっそ足元に猫がまとわりついているのであれば、恥ずかしいとか、どうしようとか、なんだこれといった感情やひとり言から解放されたのに。

おびただしい毛。白くしなやかで静電気にしっかり絡めとられたアレビビの分身が、とてつもない存在感で膝から下半分に巻き付いている。

なんだこれ。いったいつ、ついたんだ。

そんなことをぶつぶつ言いながら手のひらで払うけどもちっとも取れやしない。随分しっかりとした意思で「ここにいます」と主張していて、なんならそんな所作のせいで私の足元に注意が集まってしまう始末だ。

猫の毛おばさん。

「やだぁ、猫の毛おばさんが猫の毛まき散らしてる」

脳内女子高生が黒パンツ膝下猫の毛おばさんを容赦なく攻撃してくる。やだやだ。

こうなったらこんなところで立ち止まっていないで知らぬ顔をしていこう。どうせ誰もおばさんの膝下なんて見てないのだから。

そう思って店内をうろつくがどうも店員を避けてしまう。見知らぬ客を避けてしまう。やだなぁ、とまた膝下を気にしてしまう。こんなにチキンだったっけ?と思いながらまた無言で猫の毛を払っていたら、ふと腕に目がいった。

あらやだ、こんなとこにもアレンとビビ……否、防寒のコートに猫の毛びっしり。

詰んだ。

意図せず全身猫の毛コーデで外出してきたとは。よくよく見たらカバンにすら毛がついている。おいおい猫ランドの住人かよ。

そんな突っ込みをしたとかしないとか。

……ま、とにかく夜だからと気を抜かず、出かける前チェックは入念にしようと改めて悟った夜だった。

珍しくお父さんの手を攻撃するアレン

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