ドラマ『模仿犯』
その日は面接のドタキャンが二件も続いて相当頭が痛い日だった(採用の仕事をしている。ドタキャンになるということは再び募集作業から始めないといけないということだ。それは過分に面倒である)。
気晴らしにと開いたネットフリックス…と言いたいが、しょっちゅう開いては何かしら見ているので気晴らしでもなんでもない。ただのさぼりだ。
そんなさぼりの最中、台湾映画×サスペンスという組み合わせが珍しくて視聴することにした。
『模仿犯』ネタバレ無しレビュー
原作は宮部みゆき
模倣犯は、小説家・宮部みゆきの作品のひとつだ。とても長い長編で、いつか映画にもなった。その映画が酷評されていたと知ったのは、このドラマについて調べてからであるがその後テレビ東京で放送されたスペシャルドラマは好評だったらしい。見ておけばよかった。
そして今回、台湾の制作会社にて作られた『模仿犯』は、宮部みゆきの小説を主軸にしつつも、オリジナリティを加えた内容となっている。

凄惨な事件の幕開け
第一話のスタートは、主人公である検事グォ・シャオチが家族殺しで捕まった少年を担当するところから始まる。この物語によってシャオチの人間性である「生真面目さ」や「緻密さ」「観察力」などを描いている。
そして本題に続き、公園を散歩していた人物が赤い箱に入った人間の手首から先を切り取られた片手を発見することで事件がスタートする。警察が現場検証をする中、シャオチは現場に現れて実況見分を始めていく。

誰が置いたのか。犠牲者は誰なのか。
何もわからない中、近くで事件を聞きつけたテレビ局が撮影を始めているのを見つける。意気揚々とレポートをするレポーターとカメラマン。そのマイクには『NTB』の文字が書かれている。
NTBはテレビ局のひとつだ。特ダネをつかんだNTBは人気番組で映像を取り上げることにする。これにより各社を出し抜いて事件を報道することになり、局内は祝福ムードに包まれるが記者であるルー・イェンジェンはひとり浮かない顔をしていた。そんなイェンジェンをカメラマンが無言で撮影している。この時点で相当怪しい。
不審な動きのカメラマン
そんな、とにかく怪しさ満載のカメラマンを検事のシャオチは知っていた。それは、元カノの弟だからだ。シャオチは弟が事件に関りがあるはずはないと思うが周りがそれを許さず、被疑者のひとりとして扱うことになる。それに反発する元カノ。ここでもシャオチの愚直な性格が現れ、元カノとの間に亀裂が生じることになる。

緻密なストーリー展開によるキャラクターの肉付け
このようにストーリーは緻密に展開していく。それぞれのキャラクターに秘密や暗い過去があり、それを詳らかにしていくくだりがいくつか存在する。小説も長いが、ドラマも長い。しかし長い分キャラクターの性格や小さな軋轢などが丁寧に描かれ、彼らの世界観が肉付けされてわかりやすく、本筋に入るまでのランディングがスムーズになる。
そうして、この手首の発見された恐ろしい世界に私たちはいつしか入り込んでいるのだ。
犯人が生活圏内にいることを知らされ、被害者の家族はそうと知らずに生きている。ドリフターズのように、「志村、うしろうしろ!」と言いたくなる展開に固唾を飲み、やがて悲惨な現実が露になりため息をつくことになる。
でも私たちはわかっている。この世界で殺人が起きることを。犯人は誰だ。誰がこの凄惨な事件を起こしたのだ。

止まらない殺人
私たちの憤りを受け止めて、検事のシャオチはひとつひとつ問題を紐解いていく。冷静に、沈着に。
そしてようやくたどり着いた犯人だったが、邪魔が入り逮捕することが出来ない。そうしている間に犠牲になっていく人たちがいる。
そんな彼を嘲笑う犯人。シャオチを追い詰め、繊細な部分を刺激し、挑戦状をたたきつける。
お前は冷静でいられるか?と。苦悩する主人公。彼は最後まで冷静を保っていられるのだろうか。

ただの犯人捜しに終わらない
この物語はただ単純に犯人捜しをする内容にはなっていない。怪しい人物が次から次へと現れて、そしてターゲットも次から次へと変わっていく。誰も愛する人を前に冷静を保ってはいられないというヒューマニズム。何をなげうっても守りたいといういたいけな感情。そういった人間の性質を見せつけられ、同じように痛みを覚えることになる。
そんな情愛を徹底的にバカにする犯人の手口にはより一層の不快感を覚え、いつしかシャオチが必ずや犯人を追い詰めてくれるだろうと期待するようになるのだ。
しかしそんな期待をも悠然と裏切ってくるのだ。その展開にはついぞ飽きれてしまう。これから先どうなるのか?と。でも、そんな流れこそがすべて、物語の緩急にすぎない。最後まで息つく島のない展開を楽しめることになるだろう。

終わりに
正直にいえば長かった。6話ぐらいで犯人が判明し、8話でその犯人の運命が定まるからだ。けれど、そこからも飽きさせない展開が続く。
そして最後の回収までもがとても見事で、結局、「長いけれど見ごたえがある作品だった」と満足度しかない。
長いと感じたのは仕事があるから中断しながらでなければ見られなかったからで、決して不服というわけではない。
終わったときが昼間で、世界がこんなに明るくて平和であることに思わず安堵した。それくらい物語に入り込んでいたせいだと思う。次々と人が死に、誰も信じられない世界。でも心配はない、これは物語だから。終わりまで不安を残さずエンディングしている。だから安心して週末に見て欲しい。安心で安全なこの世界で、ちょっとだけ非現実に身を投じてみても悪くはないだろうから。

主要キャスト
ウー・カンレン(グォ・シャオチ役)
よくいえば実直、悪くいうと融通のきかない性格の検事グォ・シャオチを演じた台湾の俳優。壮絶な過去を持ちながら罪に向き合う検事の、真っすぐさや苦悩を巧みに演じている。失礼ながら台湾の作品はあまり見ていないので知らない方だったが、自然でとてもいい演技で引き込まれました。

Instagramをやっていないのでウェイボーから。こんなに爽やかで素敵な人だとは。ファンです。
アリス・クー(フー・ユンホイ役)
主人公の元恋人でありながら、精神科医として犯人像を推察して検事に進言する役柄を演じた台湾の女優。2006年から俳優業を始めているようなのでキャリアは相当長い様子。2023年には資生堂『紅色奇蹟露』のCMに出ているのだとか。紅色奇蹟露って何かなと思ったらオイデルミンだった。関係ないけどオイデルミンより紅色奇蹟露の方がわかりやすい気がするな。
ジャック・ヤオ(チェン・ホーピン役)
テレビ局のリポーターであり司会者という役柄を演じた彼は、俳優の顔とテレビ司会者の顔を持つ二束の草鞋だそう。本業のままに演技をしていたということらしい。そのせいか流石にうまい。
映画情報(あらすじと補足)
『模仿犯』あらすじ
公園に置き去りにされた赤い箱を散歩中の女性が発見。中には切り取られた手首だけが入っていた。
猟奇的な事件は街を一気に不安に陥れることとなる。
誰が置いたのか?被害者は誰なのか?
警察を嘲笑うように繰り返される犯人の挑発。次々に犠牲になる若い女性。手がかりもつかめないまま発見される遺体に、過去起きた事件との共通項を見つける検事。これは連続殺人かもしれない――。
一方、特ダネのため奔走する女記者は、事件をきっかけにある出来事を思い返していた。
事件をきっかけに集まった検事と記者、そして刑事。それぞれに違う人生を歩んできた彼らの運命の糸が、今ここで複雑に交差し始める。
殺人事件専門のベテラン検事グォ・シャオチ (ウー・カンレン) は、初めて連続殺人事件を担当することに。挑発を繰り返す犯人を、どうすれば裁きの場に引きずり出すことができるのか。シャオチは真相解明につながる決定的証拠を見つけ出すと決意する―たとえそれが自らの命を危険にさらすことになっても。
Netflix Japan『模仿犯』予告編 – Netflix
コンテンツ詳細
制作 | 瀚草影視 |
配信先 | Netflix |
プロデューサー | 湯昇榮(フィル・タン) 曾瀚賢(ハンク・ツェン) |
キャスト | ウー・カンレン アリス・クー キャミー・チャン ジャック・ヤオ |
公開日 | 2023年3月31日 |
エピソード | 全10話 |
ジャンル | サスペンスドラマ |
視聴層 | 16歳以上 |
シーン別詳細
ラブシーン | 無し |
露出 | 下着姿程度 |
性表現 | なし |
暴力シーン | あり |
殺人 | 有り過ぎる |
出血 | 有り過ぎる |
補足 |
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