それぞれの性格

猫が睨み合っている。
 我が家はロフトのついた家なのだが、ロフトは物置と化しているので必要以外に立ち入ることはない。
 しかし猫はそこがすこぶる気に入っているらしくて、日に何度もロフトにあがる。そのロフトにビビがいて、アレンが下からずっと見つめている。ただひたすらに見つめている。もう五分以上もそうしている。

 生まれたとき……正確に言うと保護に行ったときは三匹いたらしく、一匹は別に引き取られ、この二匹だけが保護活動をしている団体に委ねられた。その団体経由で我が家に来ることになったアレンとビビは、兄弟猫だからか非常に仲がいい。

 シャム顔のアレンは性格的に甘えん坊で人懐こい。臆することがなく遊びが大好きで可愛い声で鳴く愛されキャラだ。俊敏でスレンダーなところがかっこいい。
 対するビビは臆病なくせに王子様キャラで「俺の言うことをきけ」という性格をしている。来たばかりの頃はアレンより小さくて軽く、雌と間違われていたのに、気づけばぷくぷくと太り、同じ量を食べているのになぜか樽のような体つきをしている。そのせいで高いところにのぼることは得意としない。ジャンプ出来ないからだ。

 そんなビビをアレンはこよなく愛していて、常に寄り添い、常にグルーミングしている。背中がびしょ濡れになるまでなめまくるが、ビビは「よきにはからえ」という感じでなされるがままだ。

 あるうららかな日のこと、ビビが姿を消した。
 猫あるあるだが、猫が姿を消したときに呼んでも出てこないというのがある。アレンはビビを方々探したのだが見つからず、甲高い声でミャオンミャオンと呼ぶのだがちっとも出てきやしない。
 どれだけ鳴いても出てこないので、諦めてひと休みするのだが、起きてまたミャオンミャオンするも、やっぱり出てこない。
 一緒に探してはみるがちっとも見当たらない。
 家を出ていないし、緊急を思わせる鳴き声も、聞いたことのない物音もしなかったことから「どうせどこかでのんびりしているのだろう」と鷹揚に構えていたが、アレンは気になって仕方がないらしく、片割れがいなくなったとうろたえている。
 ふと、通常触れることのない場所からカサリ、と物音が聞こえたのでのぞいてみると、果たしてビビはそこにいた。台所の戸棚の奥だ。すぐそばでアレンが呼んでいるというのに、徹底して無視するビビ。
「アレン、ここにいたよ」と教えたらいそいそとアレンも棚奥に入っていく。
「なんだよ見つかったかぁ」みたいな顔で出てきたビビは、しれっと肉球なんかを舐め舐めして悪びれる様子もない。

 しかしこれが逆の場合、様相はがらりと変わる。
 ビビがアレンを必要とするとき、彼は探しにいかない。
 さほど動かずに、クルルル、クルルルと鳴いて「なんか用事あるから来い」みたいな声を出すのだ。そうすると、アレンはそわそわとして、慌てて駆けつける。
 飼い主に甘えたくて足元に絡まり、ようやく撫でてもらい始めたってときも、腕の中に寛いでうとうとと眠りかけた時も、おもちゃのボールを転がして無心に遊んでいるときもトイレのときも、どんなときも、アレンはビビを優先する。
 だからトイレのうんこは隠さないし、なんなら床にポトリと零して歩くこともある。
 下僕のように従順、と思っていたが、最近は少し様子が違う。従順というより執着に近いかもしれない。

 ビビは甘えたいときしか触らせてくれないツンデレ王子だが、甘えたいときはとことん甘えたい。「俺の身体を存分に触らせてやるぞ」とばかりに進行方向前で寝転がり、「ほれほれ」って感じでお腹を無防備にみせる。
「いや、今忙しいから」
 と無視しようとしても、「おい!今は撫でる時間だってばよ!」って感じでひたすらに付いて回り、何度でも目の前に寝転がる。
 それで、仕方ないから撫でまわしているとどこからともなくアレンがやってきて、「その役割は僕がしますから大丈夫ですよ」って風情で舐め舐めしたり首だの喉だのに噛みついたりするのだ。それも毎回毎回。
 ビビが甘え声を出した途端反応しているらしく、深く眠っていたはずなのに、別な階にいたはずなのに、結構なスピード感でそばにくる。
 そして、飼い主がナデナデし始めた途端、横取りするかのようにやってくるのだ。

 なんか、「自分以外がビビを愛でるのは許さない」と決めているような。

 しかし件のビビはアレンが来ても大して嬉しそうじゃない。ときに鬱陶しいのか、邪見に扱うときさえある。

 愛情を注ぎたいアレンと、鬱陶しがるビビ。

 さて、そんな二匹の現状である。
 当初その睨みに受けて立つかのごとくアレンを凝視していたビビだが、今みるとあくびをしている。もうすっかり飽きたみたいだ。大してアレンはまだじっとビビを見つめ続けている。隙があれば行こうと決めているみたいに、ただじっと。
 
 愛はコンプリケート。

※こちらは2021.11.23にnoteに投稿したものの再掲です

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